パーパス経営はなぜ「意味ない」と言われるのか

仁藤 安久

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「パーパス経営」と一緒に検索されている言葉を調べると、「事例」や「進め方」と並んで、「失敗」「意味ない」「うざい」が出てきます。

まず確かめておきたいことがあります。この言葉で検索している人は、パーパスに反対しているわけではない、ということです。本当に反対なら、調べません。調べているのは、つくった側か、つくらされた側です。どちらも「あるはずのものが動いていない」ことに困っている。反対ではなく、困惑です。

そして、その検索でどんな記事が出てくるかというと、ほとんどが「失敗する理由」の一覧です。経営陣の本気度が足りない。現場を巻き込めていない。言葉が抽象的すぎる。評価制度と連動していない。どれも当たっていると思います。私たちも同じことを現場で見ています。

ただ、正直に申し上げると、原因の一覧を読んで組織が動き出した、という話を私は聞いたことがありません。原因はもう十分に数え上げられている。それでも検索が止まらないということは、数え上げでは解けていないということだと思うのです。

原因の一覧には、共通する形があります。足りないものを並べる、という形です。本気度が足りない、巻き込みが足りない、評価との連動が足りない。すると打ち手も「足す」になります。説明会を増やす。ワークショップを足す。評価項目に入れる。

ただ、足りないから動かないのだとしたら、足せば動くはずです。多くの会社がすでに足していて、それでも動いていないのだとすれば、問題は足りなさではないのかもしれません。

だから、少し違う角度から書きます。

私たちの見立てはこうです。「意味がない」と言われているとき、その人は言葉の中身を否定していません。自分に関係がない、と感じているのです。

理念が現場に降りてくるとき、多くの場合それは「上が決めたこと」として届きます。すると受け取る側には、内容より先に構図が伝わる。決める人と、決められたことに沿っているかを見られる人。この構図が伝わった瞬間、その言葉は自分を測る道具になります。

測る道具として届いた言葉に、人は近づきません。反対もしません。ただ、素通りします。ポスターの前を通り過ぎるのは、書いてあることに反対しているからではないのです。

では、動く言葉は何が違うのか。

私たちがこれまで関わってきた中で、機能している言葉には共通点がありました。判断の場面に置かれている、ということです。

たとえば、営業が見積もりの線引きで迷ったとき。開発が納期のために仕様を削ろうとしたとき。採用の最終面接で、二人のどちらかを選ぶとき。その場面で「うちはこういう会社だから、こちらを選ぶ」と口に出せる言葉になっているかどうか。額に飾られているか、判断の机の上に置かれているか。違いはそこにありました。

言い換えると、理念が機能しているかどうかは、掲げ方ではなく置き場所の問題だということです。

そう考えると、「意味ない」と言われたときにやるべきことも変わってきます。言葉をつくり直す前に、確かめることが三つあります。

一つ目。この言葉を、誰が使うのか。全社員、と答えたくなりますが、それでは誰も使いません。営業の誰か、開発の誰か、と顔が浮かぶところまで具体にする。

二つ目。どの場面で使うのか。使われる場面が一つも思い浮かばない言葉は、どれだけ正しくても使われません。逆に、場面が決まっていれば、多少ぎこちない言葉でも使われはじめます。

三つ目。これが一番大事だと思っています。その言葉を使った人は、守られるか。

理念を持ち出して「この案件は受けません」と言った人が、その場では褒められても、期末の評価で数字が足りないと言われる。そういう構造が残っているかぎり、誰も二度目は使いません。言葉が使われないのは、言葉が悪いからではなく、使うと損をするからです。ここに手をつけないまま浸透施策を重ねても、うざさが増えるだけです。

私たちがインナーブランディングの相談を受けたとき、まず現場で何が起きているかを聞くところから始めるのは、このためです。言葉の出来を診断しに行くのではありません。その言葉が使われる場面が、いま組織の中に用意されているかどうかを見に行っています。

「パーパス経営は意味ない」と言われているとき、意味がないのはたぶんパーパスではありません。パーパスの置かれ方です。

そしてこれは、つくり直さなくても変えられます。

→ インナーブランディング(組織に機能させる)について

YASUHISA NITO
1979年、静岡県生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程にて文化人類学・地域づくり・ネットワークコミュニティ論を専攻した後、2004年電通入社。 コピーライター及びコミュニケーション・デザイナーとして、日本オリンピック委員会、日本サッカー協会、三越伊勢丹、森ビル、ノーリツ、西武鉄道などのクリエーティブ業務を担当。電通サマーインターン座長、新卒採用の戦略にも携わり、クリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッドの開発を行う。2017年に電通を退社。新規事業開発担当として、広告・コンサルティングの他に、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、顧客サービス、人事・教育への、 広告クリエーティブの応用を実践している。 受賞歴は、ロンドン国際広告賞 金賞、ニューヨークフェスティバル 銅賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。