間宮のコラム まみこら vol.22
SXSW2019(2)

間宮 洋介

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イケイケどんどん

電動スクーターですいー

 

オースティンに行ってびっくりしたのは、電動スクーターという新しい移動手段が定着していたことでした。電動スクーターとは、日本でも小学生とかの間で一時期流行ったキックボードにセグウエイのテクノロジーを導入し進化させたもので、最初は足で地面を蹴って走らせると、あとはモーターが補助してくれて最大時速20kmまで出る、充電式のキックボードです(一般的には電動スクーター、もしくはeスクーターというらしいので今後、それに統一しますね)。そこそこの坂なら蹴りながらスイスイ行けるし、街なかの移動だったら、渋滞にハマるかもしれないタクシーよりは結局早く目的地につけるため(特にSXSW開催中のオースティンは大渋滞祭りだったので)、感覚だと、今年SXSWを見に行った人の半分以上は、一回は乗ってみたのではないかと思います。

 

 

 

もっとも身近なシェアライドの形

 

すでにご存知の方も多いと思いますが、この電動スクーターはオースティンだけではなく、アメリカの他の都市でも、そしてさらに、フランス、シンガポール、イスラエルなどをはじめとした世界の国々でも、街中の新しい交通手段として急速に普及しています。これは別に個人が電動スクーターを所有して乗り回しているわけではなく、「シェアライドサービス」として普及しているのです。オースティンでは、Lime、Bird、JUMP、SPIN、Lyftという5社がサービスを展開していました。ユーザーは、GPS機能のついたスマホにアプリをダウンロードし、街角に停まっている電動スクーターのハンドル部分にあるQRコードをスマホでスキャンします。するとユーザー情報と照合され、その電動スクーターがアンロックされ、乗れるようになります。乗り終わった後は、好きな場所(もちろん禁止区域はあるのですが)の街角に乗り捨てて、アプリでロック、さらに適切に停めたか写真を撮ってアプリ経由で送ればライドが終了する、という簡単な仕組みです。だいたい2kmで200円とか、体感そんな感じです。

 

Shutterstock.com

 

 

軽やかな課題解決方法?

 

電動スクーターがこれほどにまで普及したのにはいくつかの理由があると思います。アメリカの都市では近年交通渋滞が激しく、また、クルマを使う人のほとんどが4km以内の近距離移動者だということです。手軽で導入コストが低い電動スクーターは、大都市のモビリティとしてその課題を解決すると大いに期待されていました。さらには、GPS機能付きスマホの圧倒的な普及により、ユーザーの認証データや移動データは、彼らのスマホを通して管理すれば良くなりました。電動スクータ側にはQRコードさえ表示しておくだけで良くなったことで圧倒的にサービス運用が「シンプル」になったのです。そしてそれに加えて最大の理由が「充電ドックのあるところに停めなくてもいい」ということです。少し前に中国で爆発的に増えた「シェア自転車」は、ドックに停めなければいけない制約がありました。好きな場所から好きな場所まで乗ることができなかったわけです。これをあの中国の人たちが我慢できるはずはありませんでした。街中に乗り捨てられた自転車が溢れ、自動車や歩行者の通行の邪魔になった挙句、今ではもうなくなってきています。速いですね、展開が。さすが中国。一方で、この電動スクーターは、自転車よりボディが小さいということに加え、「ドックレス(充電ドックのところに停めなくていい)」という特徴を持っています。先ほど書いたように、本当に「好きな場所から好きな場所まで乗って、乗り捨てることができる」のです。アメリカにおける電動スクーターシェアサービスの最大手にして今も急速な勢いで拡大するLimeは中国のTencentが設立した会社です。きっとシェア自転車で得た知見を高速で生かしたのではないかと思います。さすが中国。ちなみに先ほど述べた5社の電動スクーターは基本中国製だそうです。さすが中国。

 

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日本でも実証実験が始まる

 

先週、日本でもLUUPという会社が5つの自治体と組んで実証実験を始める、というリリースを出しました。(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000043250.html)この会社は以前にも渋谷区観光協会と組んで、電動スクーターシェアライド普及を目指す、ということも発表していましたね。いよいよ日本でも?と期待したいところなのですが、今のところ日本では道交法との兼ね合いもあり、なかなか難しいようです。電動スクーターは現行法上、公道上の走行が禁止されており、さらにはそれをクリアしたとしても、原付バイクと同じように、一台一台に登録とナンバーが必要になるそうです。そしてユーザー側には免許とヘルメットが必要になります(ちなみに、オースティンではBird以外は免許の登録は必要ありませんでしたし、ヘルメットかぶってる人は誰もいませんでした)。LUUPのリリースでも、実際にどのように実証実験を進めていくかはまだ明らかになっていません。規制との兼ね合いで時間をかけてやっていくんでしょうね。とりあえず新しいことをやってみて高速でPDCAを回す中国とアメリカに対して日本の規制は少し厳しすぎるのかもしれません。

 

 

 

でも、本当にいいことしかないのか?

 

と、自分がオースティンで体験し、ちょっと調べたことを文章にしてみたわけですが、こういう風に書くと、今のところいい事しかなさそうですね。ところが、実際に自分が体験してみて、電動スクーターシェアライドの普及は、必ずしもいいことだけではないことも体感しました。なんかこういうことを書くと「新しいものには必ずダークサイドがあるんじゃよ」という長老みたいな感じになるのでそれはそれで嫌ですが、現実問題、普及によって起こっている新たな問題も指摘され始めています。次回はそのことについて書いてみたいと思います。それにしても、今回SXSWに行ってみてもっとも印象的だったのはこの電動スクーターの圧倒的スピードでの普及でした。その次は合法大麻ビジネスに関する学び。これもまたの機会に書きますね。

YOSUKE MAMIYA
1994年電通入社。2年間のマーケティング局、16年間の営業局勤務を経て、2012年よりCDC。 「戦略とは、課題の言語化である」を戦略立案の芯に据え、戦略から表現まで統合し、あらゆる課題解決業務に従事。関わる領域は、広告コミュニケーションにとどまらず、事業系ソリューション、中長期経営計画立案、インナーのモチベーション・デザインなど多岐にわたる。 2017年に電通より独立。2018年 株式会社 Que 代表取締役CEOに就任。 主な仕事として、キリンビール「一番搾り」「氷結」キリンビバレッジ「午後の紅茶」「FIRE」におけるコミュニケーション・デザイン。 トヨタ自動車「AQUA」「MIRAI」「PRIUS PHV」「C-HR」のコミュニケーション戦略、 NTT ドコモ「2020 東京オリンピック協賛プロジェクト 」、プレナス「ほっともっと」ブランディング・ディレクション、日清食品「カップヌードル」 「UFO 」におけるキャンペーン・プランニングおよび、フロンテッジにおける事業コンサルテーションなど。