間宮のコラム まみこら vol.26
SXSW2019(6)

間宮 洋介

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“CBD”とその近くの言葉たち

規制と規制緩和と“マーケット”

 

今回、自分がSXSWで大麻ビジネスの話を聞きたかったのは、「規制緩和によって生まれた市場がどのように成長し、巨大市場として世の中に定着していくのか」を聞きたかったからだという話は以前のコラムでも書きました。規制によって新しい市場が生まれる、というのは、日本でも馴染みがあることだと思います。例えば、酒税法の改正によって生まれた“第3のビール”は、今や元々のビール市場を凌駕するほどの大きさになりました。また、先進国で規制された薬が、まだ規制のゆるい発展途上国に流れ、そこで大きなマーケッとをつくるものの、その負の側面として薬害被害を起こすといった“負の輸出ドライブ”という現象も、一時期盛んに報じられていました。自分の大学の卒業論文のテーマは、「規制と規制緩和がマーケットにもたらすインパクト」でした。そしてその中で上記のような “薬害の輸出ドライブ”や、“麻薬規制とブラックマーケットの関係性”についても論じました。なので、まさにアメリカにおける大麻合法化の流れとその後のマーケット拡大のプロセスに興味があったのです。今回、SXSWのセミナーで、これからの大麻産業について、“ブランド”という側面からいくつかの言及があったので、それらを紹介しつつ、自分なりに考えを書きたいと思います。

 

 

 

大麻に“ブランド”はできるのか?

 

参加したセミナーの中で、「今後、大麻市場でも例えば“コカコーラ”や“アップル”のような巨大ブランドができていくのでしょうか」という質問がなされました。それに対してパネリストの返答は「しばらくは、“大麻そのもの”のビッグブランドというのはできないのではないか。なぜなら今のところアメリカでは州によって大麻の扱いは細かく分かれているし、州をまたいでの移動、販売ができない。となると大きなブランドが育ちにくい環境にあるから。」といっていました。確かに、前回のコラムでも書いたように、アメリカでは連邦政府は嗜好用大麻を認めておらず、合法化判断は州法による、というグレーな状況であるため、大規模生産の上、効率性の高いマーケティング戦略が求められるような、全米的、全世界的ビッグブランドは生まれにくい状況なのかもしれません。なので、前回のような“店”や“デリバリーサービス”に投資が集まり、ともすればそれがビジネス的な意味での“成功ブランド”になっているのかもしれません。一方で、パネリストはこんな話もしていました。「多くの州で合法化が進み、利用者が多くなってくると、その中には粗悪品を売る業者も混じってくる。もちろん非合法な時にもそのリスクはあったが、市場が何倍にも拡大した現状では、市場から粗悪品を完全に排除することは難しい。そのため、『質のいい大麻』を生産できる農場の中にはその『質』をアピールするところも出てくる。その評判が定着すると、『質に基づいたブランド』という概念が生まれるかもしれない」。

 

 

 

「ブランド」の本質

 

これを聞いて「なるほど」と思ったのは、その話の中に“ブランド”というものの本質と、“なぜブランドというものが出来上がっていくのか”の起源があるような気がしたからです。当たり前のことですが、“ブランド”とは、自社製品(サービスでもいいですが)と他社製品を分ける“線引き”のことです。SNS時代になった今ではどうしてもブランドは“イケてる”とか“誰が着ている、使っている”みたいなことで線が引かれがちですが、そもそもそこに“質の違い”があるものが“ブランド”として正しいし強いですよね。たとえばエルメスも、その革の質と縫製技術の質に圧倒的な“差”があったから、長い年月を超えて“ブランド”として愛されているわけですし。そういう意味では、大麻の市場でも今は確かにいきなり“ビッグブランド”が生まれないにしても、そうやって「質の高さ」を追求している生産者と製造メーカーが、コツコツとファンを増やし、いつか大麻が全米で一斉に解禁された暁には、一気にナショナルサイズや、もしかしたらグローバルサイズのビッグブランドとして出現するのかもしれません。

 

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ビジネスに規制に左右されちゃう不自由さ

 

いくつかのセミナーや現地での調査を通して感じたことは、確かに大麻ビジネスは新しい市場で、ビジネスチャンスにあふれていると思います。一方で解けない課題が二つ、大きく横たわっている気がしました。一つは、やはり規制の問題です。自分は3月の下旬にSXSWから帰国したのですが、それから1ヶ月たたない4月の中旬に、ニューヨーク市が”CBD入りの食品”を突然販売禁止にしました。嗜好用大麻の“THC”ではなく、医療用大麻の”CBD”ですよ。折しも数週間前に連邦法が”CBD”の合法化を、初めて“明文化”した直後のことでした(ややこしいですが、連邦政府はそれまで”CBD”の解禁についてすら”明文化”していなかったのです)。このような“法の解釈による規制”は、ビジネスにとっては大きなリスクです。今後、このような様々な法規制のアンマッチや漠然性が解消されていかないとやはりなかなか大型投資が集まりにくい産業になってしまうのかもしれません。

 

 

 

大麻には本当に医療的効果があるのか

 

そしてもう一つの課題は「研究不足」です。自分は今まで当たり前に“CBD”が医療的に効果を発揮するかのように書きました。しかしアメリカではその効果の研究は十分になされていなかったのが現状だそうです。自分が参加した「大麻ビジネス寄り」のセミナーでは、「大麻(“CBD”)は、酒やタバコよりも依存性が低く、むしろ酒やタバコの方が世の中的に害悪なのである」的ロジックが展開されていたのですが、自分が参加できなかった「学術、研究寄り」のセミナーでは、「実は医療用大麻の効果の研究は、アメリカでは十分になされているとは言えない」という話がされているそうです。理由は研究者が少ないこと、そして研究用に購入できる大麻の質が悪いこと、だそうです。カリフォルニアの話をした時に「経済合理性」の前には「感情と倫理」は吹っ飛ぶ、という話を書きましたが、同時に「学術的な研究」をすっ飛ばしてでも合法化し、経済的利益も取りながら大きな社会実験をしている、と言えるのもアメリカっぽいのかもしれません。ちなみに日本では、研究用ですら大麻の原料を仕入れることができないため(CBDオイルは売っていいのに、不思議ですよね)、大麻の医療的効果についての研究はほぼゼロ、だそうです。

 

 

 

今後、日本はどうなっていくのか?

 

本当は大麻ビジネスについてはもっともっと書きたいことがあるのですが、文章にしきることがなかなか難しいことと、あまりにも毎日大麻の話ばっかり書いていると「あの人、大麻の話ばっかりしているけど大丈夫かしら」とならないとも限らないので、もしさらに聞きたい方がいらっしゃったらぜひ個別にコンタクト取ってください。もちろん自分はやってません。最後に、では、日本では今後どうなっていくのか考えてみたいと思います。日本では特に戦後のアメリカの影響で、大麻は覚醒剤と並んで一切が禁止になっています。先ほども書きましたが、研究用ですら大麻を扱うことは違法なので、世界で最も大麻に対して厳しい国の一つでもあると思います(もちろん刑罰としてより厳しい国はあるのですが)。ただし、そのご本尊のアメリカでの合法化が進み、マーケットとしても莫大な可能性がある、となると、規制緩和の可能性がゼロだとは言えないのではないか、と思います。特に日本は高齢者が増え、医療費問題も大きな課題になっています。それに対する一つの解決策として医療用大麻の可能性が取り上げられることもあるかもしれません。でも研究が進まないうちは解禁してほしくないような気もするし。ただ、将来の課題解決を考えた時には、少なくとも、将来の“日本のウエルネス課題”のためにも、まずは研究は進めてもらってもいいんじゃないか、と思いました。結論薄めですが、引き続きこの分野は世界の状況、そしてアメリカの状況をウオッチしていきたいと思っています。

YOSUKE MAMIYA
1994年電通入社。2年間のマーケティング局、16年間の営業局勤務を経て、2012年よりCDC。 「戦略とは、課題の言語化である」を戦略立案の芯に据え、戦略から表現まで統合し、あらゆる課題解決業務に従事。関わる領域は、広告コミュニケーションにとどまらず、事業系ソリューション、中長期経営計画立案、インナーのモチベーション・デザインなど多岐にわたる。 2017年に電通より独立。2018年 株式会社 Que 代表取締役CEOに就任。 主な仕事として、キリンビール「一番搾り」「氷結」キリンビバレッジ「午後の紅茶」「FIRE」におけるコミュニケーション・デザイン。 トヨタ自動車「AQUA」「MIRAI」「PRIUS PHV」「C-HR」のコミュニケーション戦略、 NTT ドコモ「2020 東京オリンピック協賛プロジェクト 」、プレナス「ほっともっと」ブランディング・ディレクション、日清食品「カップヌードル」 「UFO 」におけるキャンペーン・プランニングおよび、フロンテッジにおける事業コンサルテーションなど。