間宮のコラム まみこら vol.30
SXSW2019(8)

間宮 洋介

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平成ラストデイ

 

 

 

日本が直面する“ウエルネス”問題

 

昨日や、大麻のコラムで“ウエルネス”について書きました。SXSWでもこのテーマが大きく取り上げられ、さまざまなセッションが開かれていました。アメリカでは特に「人種問題」が社会課題の根底にあり、それが“ウエルネス”の課題解決に対して深く影を落としている感じがしました(もちろん、それでも前向きにその根源的な課題を解いていこうという人たちが確かにいる、ということを目の当たりにできたのはちょっとした感動でした)。ただ、やはりそのような話を聞いている時に自分が考えてしまうのは日本についてでした。もう改めて言うまでもありませんが、日本における“ウエルネス”の最大課題は「高齢化問題」なのではないかと思います。加えて最近は「単身世帯増加」もあるかもしれません。「都市を滅亡させる最大のリスクは『孤独』」という説もあるように、感情の起伏の低下は、人間や社会のリスクとしてますます大きくなってきているように感じます。自分もこの両方に当てはまるので、人ごとではないのと同時に、周囲に迷惑かけないように生きていくにはどうすればいいだろう、みたいなことも考えたりしてしまうわけですが、SXSWで聞いた話で、少しだけそのヒントになるかも、と思ったことがあるので、紹介しがてら、“ウエルネス”課題に対しての本質的な解き方の一つとしてさらに考える材料にしていきたいと思います。

 

 

 

“感情”は“ウエルネス”問題の一つの鍵になるか

 

SXSWのウエルネステクノロジーのセッションで、マイクロソフトの事例が紹介されたそうです。一部だとは思いますが、マイクロソフトのオフィスでは、画像解析技術を用いて従業員の“やる気”を判定し、そのレベルがある一線を下回るとその人のデバイスにアラートが送られる、と言うシステムが導入されたと言うことです。これによって作業効率は上がったとか。これは“外見の変化”“行動の変化”からその奥にある“感情の変化”を特定し、その後の“行動”に変化を与える、という試みとしては面白いと思いました。実は個人的には人間の“次の行動”を予測するために“感情データ”をうまく使えないか、と思っていたからです。先日のコラムで、さまざまな“データ”を、巨大テックが押さえている、という話を書きましたが、その多くは“行動データ”と“意識データ”です。今回、直接ではないにしろ“感情データ”の話を聞けたのが、SXSWでその話が聞けたのが興味深い経験でした。

 

 

 

資生堂とソニーの話

 

その話を聞いて思い出したのは、資生堂のCSR活動の話と、ソニーの冷蔵庫の話でした。前者は、資生堂の“ライフクオリティビューティークリニック”と言う活動で、要は高齢者施設に行っておばあちゃんにお化粧してあげると(もしくはお化粧の仕方を教えてあげると)、彼女の表情が生き生きとしてリハビリの効果が上がったり生きる気力が上がったりという効果があるそうです。後者の話は、2012年にグッドデザイン賞を受賞したソニーの冷蔵庫の話です。この冷蔵庫は表情解析機能がついていて、冷蔵庫の前で笑顔にならないと扉が開かないというものです。このコンセプトは、「人は(無理矢理にでも)笑うという表情を作ることで、笑っているという感情と同じ気持ちになる」ということだと思います。資生堂の件に関してもソニーの件に関しても、本当に医学的証明がされているかは詳しくはわからないのですが、確かに「感情」が「意識」や「行動」に影響することは個人的にも納得がいく話だと思います。”お笑い(=笑うこと)”が認知症予防に効果があるという学説もあるようですし。

 

 

 

“感情”を“ウエルネス”課題に有効に使うには

 

自分がなぜ“感情データ”の活用に注目したかというと、まさに今日本が抱える「高齢化問題」と「単身世帯増加問題」の一部は、“感情”で解決できるのではないかと思ったからです。“笑うこと”が認知症予防に効く、という学説もあるようですし、喜怒哀楽が乏しくなると身体への刺激も少なくなるため身体機能が衰えやすくなる、というのは実感できる話だと思います。ただ、自分は、先ほど挙げたケースのうち、資生堂についてはとても前向きでいいなと思うのですが、マイクロソフトとソニーの手法はあまり好きではないと個人的に感じてしまいました。なぜかというと、前者は“感情”を利用して、その人の“中に変化”を起こそうとしているのに対し、後者は“感情”を人の行動を“(外的刺激で)コントロール”しようとしている(○○しないと、●●になるという恐怖訴求)からだと思います。もしかしたらソニーの冷蔵庫は使い続けたら本当に明るい気分になるのかもしれませんが。資生堂のケースのように、人間の“前向きな行動”に結びつく“感情”を、データで補足することができれば、“ウエルネス”の一つの解決方法になるのではないかと思います。

 

 

 

日本こそ“感情データ”を有効活用できる国に

 

ただ、マイクロソフトの話で興味深かったのは、「データの使い方」よりは「データの取り方」でした(もちろん「使い方」が最も大事だとは思うのですが)。映像解析で“感情”データが取れる技術をどのように活かせば“ウエルネス”、特に「高齢者問題」と「単身世帯増加問題」に活かせるのかは研究のしがいがあるのではないかと思います。日本人は “感情”が“表情”に現れにくいと言われています。だからこそ、その研究は日本のテーマとして進めていけるのではいいのではないかと思いました。世界で一番(かどうかはわかりませんが)感情表現が控えめな国が、世界で一番人間の”感情”への理解が深く、それを課題解決に役立てている、という未来は、ちょっと素敵だと思います。令和の時代は、昭和、平成で山積したさまざまな課題を、少しでも前向きに、本質的に、解決る動きが大事にされる時代になってほしいと思います。

YOSUKE MAMIYA
1994年電通入社。2年間のマーケティング局、16年間の営業局勤務を経て、2012年よりCDC。 「戦略とは、課題の言語化である」を戦略立案の芯に据え、戦略から表現まで統合し、あらゆる課題解決業務に従事。関わる領域は、広告コミュニケーションにとどまらず、事業系ソリューション、中長期経営計画立案、インナーのモチベーション・デザインなど多岐にわたる。 2017年に電通より独立。2018年 株式会社 Que 代表取締役CEOに就任。 主な仕事として、キリンビール「一番搾り」「氷結」キリンビバレッジ「午後の紅茶」「FIRE」におけるコミュニケーション・デザイン。 トヨタ自動車「AQUA」「MIRAI」「PRIUS PHV」「C-HR」のコミュニケーション戦略、 NTT ドコモ「2020 東京オリンピック協賛プロジェクト 」、プレナス「ほっともっと」ブランディング・ディレクション、日清食品「カップヌードル」 「UFO 」におけるキャンペーン・プランニングおよび、フロンテッジにおける事業コンサルテーションなど。