アイデアは、
良質な仕入れから始まる

仁藤 安久

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突き抜けたアウトプットの裏側をたどってみると、そこには例外なく、膨大な試行錯誤があります。ただし、ただ量を重ねれば必ず質に転じる、という単純な話でもないようです。むしろ重要なのは、「何を大量に仕入れているか」ではないか、そのように思い至るようになりました。

生産性という言葉がありますが、ビジネス文脈では、効率の話に寄せられがちです。無駄を省く、時間を短縮する、回転数を上げる。もちろんそれらも大切ですが、それだけでは、アイデアの質の差は説明できません。

ものづくりの世界では、「良質な仕入れが、良質なアウトプットを生む」という考え方は、ごく当たり前の前提として共有されています。素材が悪ければ、どれだけ技術があっても限界がある。一方で、素材がよければ、多少の試行錯誤は結果につながる。この感覚は、企画やブランド、アイデアの文脈でも同じはずです。

けれど不思議なことに、ものづくり以外の領域では、この視点が軽視されがちです。アイデアが出ないとき、私たちはついアウトプットの出し方や、会議の進め方や、企画のプロセスを工夫しようとします。しかしその前に立ち止まって考えるべきなのは、「最近、自分たちは何をインプットしているのか」という問いなのかもしれません。

では、アイデアやイノベーションにとっての「良質な仕入れ」とは何でしょうか。それは、情報量の多さでも、最新トレンドをただ追いかけることでもありません。良質な仕入れとは、違和感を浮き立たせるインプットとも言えるのかもしれません。

見た瞬間に「なるほど」と理解できてしまう情報よりも、「あれ?」と立ち止まらせるもの。すぐには消化できず、しばらく頭の片隅に残り続ける違和感。そうしたインプットのほうが、後になって思考の幅を広げ、アイデアの跳躍を支えることがあります。

最近、情報量は増えているはずなのに、アイデアが痩せていく感覚を覚えることがあります。これは個人に限らず、組織の中でも起きている現象のように感じます。その原因は、仕入れの量ではなく、仕入れの種類が単調になっていることにあるのではないでしょうか。

同じ業界の事例、同じ言葉、同じ成功ストーリー。同じ前提の中で情報を循環させ続けていると、思考は効率化される一方で、遠くへは行けなくなります。安全で、わかりやすく、すぐに使えるインプットばかりでは、新しい問いは生まれにくいのです。

この感覚は、インナーブランディングの仕事でも強く感じます。どんなメッセージを掲げるか、どんなビジョンを語るか。その前に、その組織が日々どんな言葉や価値観をインプットしているのかを見直す必要がある場面が多い。

社内で評価されやすい意見、繰り返し参照される成功体験、暗黙のうちに共有されている前提。それらが固定化している限り、アウトプットだけを変えようとしても、どこかで無理が生じます。良質なアウトプットは、良質な仕入れの副産物でしかない、という前提を共有できるかどうかが分かれ目になります。

もうひとつ、仕入れを貧しくしてしまう要因があります。それは「忙しさ」です。忙しくなるほど、人は仕入れを効率化し、短く、わかりやすく、すぐに使えそうなものを選びがちになります。しかし本当は、余裕がないときほど、遠回りな仕入れが必要なのかもしれません。

直接役に立つかどうかわからない話。すぐに結論が出ない問い。いまの仕事とは関係なさそうな領域。そうしたインプットが、後になって思考の跳躍を支えることがあります。

生産性を高めるとは、単に速くなることではありません。何を仕入れ、何に触れ、どんな違和感を持ち帰るか。その選び方を意識的に設計することでもあります。アイデアやブランドづくりは、ひらめきを待つ仕事ではなく、日々の仕入れをどう選ぶかという、地味で静かな行為の積み重ねなのだと思えます。

 

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YASUHISA NITO
1979年、静岡県生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程にて文化人類学・地域づくり・ネットワークコミュニティ論を専攻した後、2004年電通入社。 コピーライター及びコミュニケーション・デザイナーとして、日本オリンピック委員会、日本サッカー協会、三越伊勢丹、森ビル、ノーリツ、西武鉄道などのクリエーティブ業務を担当。電通サマーインターン座長、新卒採用の戦略にも携わり、クリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッドの開発を行う。2017年に電通を退社。新規事業開発担当として、広告・コンサルティングの他に、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、顧客サービス、人事・教育への、 広告クリエーティブの応用を実践している。 受賞歴は、ロンドン国際広告賞 金賞、ニューヨークフェスティバル 銅賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。