間宮のコラム まみこら vol.3
桜とマーケティング

間宮 洋介

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1年ぶりですすいません

 

 

今年も桜が満開です

 

2018年2月1日に設立しました株式会社Queは、無事初年度を走り切り、2年目の春に突入しております。去年のコラムのエントリーをみると、「Queはケセラセラのケ」とか能天気に書いていたのですが、1年もの間、コラムをほったらかしにしていた自分のケセラセラぶりに震えすら覚えます。光陰矢のごとし。今年も自席から桜が綺麗に見えているので心機一転、いろいろ思ったことを書いてみたいと思います。

 

 

桜って怖くない?

 

今年も桜が綺麗です、とか書いていると、自分でも、「俺ってそんなに桜が好きだったっけ?」と思うことがあります。否。むしろ嫌いでした。水泳部の練習場所だった屋外プールの観客スタンドの上に見事な桜並木があったのですが、そこで4月中下旬頃、陸トレで腕立て伏せとかをしている首筋に毛虫がボトボト落下してくるというのが風物詩になっていた高校時代。無条件に桜=毛虫=ひえええという連想が頭の中に出来上がったのも一つの理由かもしれません(今でも葉桜は苦手です)。ただ、それとは別に桜が苦手な理由がありました。子供の頃、自分は桜がちょっと不気味だと思っていたような気がします。ほら、桜って突然爆発するように咲きません?一輪二輪咲いたと思うと、しばらくすると満開になっている。さらにはよーく見ると枝先からだけじゃなくて、太い幹の表皮が裂けて、そこから直接花が咲いてたりする。なんかその爆発的な生命力みたいなのが怖い。そんなことを思っていた記憶があります。毛虫も落ちてくるし。

 

 

年をとっても性格は変わらないけど、好みは変わる

 

高校時代から激しく年月が流れましたが、桜はその爆発的な生命力を持って、今年も咲いています。ただし、昔と違うのは、今では、毎年桜が咲くのを楽しみにしている自分がいることです。「30過ぎたら、基本、人間の性格って変わらないよ」とはよく言われますが(そして自分もそれには概ね合意なのですが)、「好み」は変わる、というのはリアリティがあるように感じます。時の流れは人の「好み」を変える。子どもの頃に苦手だった食べ物が、大人になって好きになる。逆に、子どもの頃に当たり前に触れた昆虫が突然苦手になる。時にはゆっくりと、時には急激に。今ではその爆発的な生命力をもって咲き誇る桜が自分にとって好きなものの一つになりました。

 

 

 

桜への印象を突然変えた一言

 

なんで嫌いだった桜が好きになったのか。そんな自分の桜観を大きく変えた一言がありました。まだ自分が30手前だったと思いますが、電通時代の自分の尊敬する上司(局長でした)が、4月の局会のとき、こういう話をされました。当時、その方は40になるかならないかくらいだったと思います。「今年も桜が咲きました。自分も若い時は毎年桜が咲いてるなあ、くらいにしか思わなかったんだけど、ある年、こう思ったんだよね。これから自分が桜を見る回数は、今まで見てきた回数より少ないんだと気づいたら、急に桜が特別なものに見えた」と上司は言いました。自分はその時、桜が1年に一回しか咲かないこと、そしてそれはcountableで、有限なものだということに初めて気づかされ、そこから、自分の桜観が変わったように思います。有限だと気づいてしまったからこそもう戻れなくなった桜への印象。自分とその上司の場合、その変化は緩やかでなく「急激に」訪れた、ということだと思います。まあ、要は、自分は、20代後半で「人間は年をとる」ということに気づいた瞬間が突然訪れたことによって桜に対して「いじらしさ」を感じ始めて好きになった、という話なのですが。

 

 

デモグラとインサイトは結びつく

 

今、マーケティングでは「デモグラ(性年代)でターゲットを語る」ことはなんとなく古くて頭の悪いことのように言われます。確かに、個人の嗜好が細分化し、それを捕捉できるようになった今、調査データをただ性年代で区切ってそこから発見を見つけようとしても、それはかなり漠然とした分析にしかなりません。ゆえにデータの分析には「嗜好のクラスタ」「情報感度やリテラシー」など、より様々な要素が必要になってきています。一方で、自分がマーケッターとして大事だと思うのは、ただデータの分析にとどまらず「その年代の人が、どのような気持ちの変化を経て、いま、世の中をどう見ているのか、その結果、どういうものが好きになってきて、どういうことが許せなくなっているのか」、その大きな「流れ」を洞察(インサイト)する、ということだと思います。その洞察が、捉えるべき人たちをリアルに、瑞々しく理解する助けになるからです。そう考えると、単純に「マーケティングにおいてはデモグラ分析って古いよね」と切り捨てるのはちょっと短絡的なのかもしれません。人間は年をとるにつれて好みが変わっていく。そしてその中にはその年代に共通するものがあるかもしれないのですから。

 

 

 

洞察は、繊細に、でも大胆に

 

もちろん、同年代といっても、全員が同じ経験をしているわけではないので、一概に好みが同じになるというわけではないと思います。年をとるとおおらかになる人と頑固になる人がいるように。でもデータを睨んで、難しく考えすぎてわからなくなってしまった場合、注意深く観察して、ある程度ざっくりと「人が年をとって経験を重ねるにつれ。どんな好みになっていくか」を想像してみると、その悩みは意外に単純に解決するかもしれません。

 

YOSUKE MAMIYA
1994年電通入社。2年間のマーケティング局、16年間の営業局勤務を経て、2012年よりCDC。 「戦略とは、課題の言語化である」を戦略立案の芯に据え、戦略から表現まで統合し、あらゆる課題解決業務に従事。関わる領域は、広告コミュニケーションにとどまらず、事業系ソリューション、中長期経営計画立案、インナーのモチベーション・デザインなど多岐にわたる。 2017年に電通より独立。2018年 株式会社 Que 代表取締役CEOに就任。 主な仕事として、キリンビール「一番搾り」「氷結」キリンビバレッジ「午後の紅茶」「FIRE」におけるコミュニケーション・デザイン。 トヨタ自動車「AQUA」「MIRAI」「PRIUS PHV」「C-HR」のコミュニケーション戦略、 NTT ドコモ「2020 東京オリンピック協賛プロジェクト 」、プレナス「ほっともっと」ブランディング・ディレクション、日清食品「カップヌードル」 「UFO 」におけるキャンペーン・プランニングおよび、フロンテッジにおける事業コンサルテーションなど。