間宮のコラム まみこら vol.15
五感とインサイト(4)

間宮 洋介

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集団にもインサイトがある

 

今日は、3月に行ったSXSWの事後報告会があり、同じツアーで行った人たちが個人的に感じた総括を聞きました。10数名ぶん。SXSW本番もめちゃめちゃ問いと学びがあったのですが、今日の報告会も、何しろインプットが多すぎて頭があふれています。SXSWの個人的レビューは、インサイトの話が終わったらまとめてこのコラムで書こうと思っているので、詳細はそちらに譲りますが、やはりそこで感じたのは、国という「社会のインサイト」の違いです。このコラムでは主に「インサイト」を、「個人」のものとして解説してきましたが、人の集合体である「社会」にも当然「インサイト」はあります。というか、「インサイト」とは、ある意味、文化的に作られた文脈にのっとった上で人が「どうしても取ってしまう行動、どうしても抱いてしまう感情や意識」だとすると、それはむしろその空気を作り出している「社会」そのものと深く関わり合っていると言えます。

 

 

赤信号の日米

 

日本には「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という言葉があります。実はこれ、1980年にビートたけしが漫才のネタの中で口にした言葉、つまり「風刺を含んだボケ」だったということですが、今ではなんなら日本の“ことわざ”のように思われています。なぜそんなことになったのでしょうか。これは日本人が暗黙のうちに共感する「日本人の集団行動心理」を絶妙なたとえ話で言い切ったからだと思います。試しにこの言葉を英訳してみた時に一番近いニュアンスの言葉は、“(There is) Safety in numbers.”だとされています。つまり「人が数多くいると安全性が増す」。でもこれ、日本語における「赤信号、みんなで渡れば怖くない」とはちょっと違う気がします。なんとなく「集団登校だと単独登校よりは安全だよね」的ニュアンス。「赤信号〜」はそれを超えて、日本人が「たとえルールがあったとしても、それを集団で破ってしまえば一人一人の責任は薄まる」的な意識。でもよく考えたらたとえみんなで渡ってようが、みんなが怪我するだけですよね。そこに論理的な矛盾をはらんでいることを日本人は「感覚」で共有しますが、欧米人にはわからない。「何人で渡ってようが、赤信号だったらリスクはあるから怖いじゃん」になるわけです。欧米は日本に比べると個人主義、ということだと思いますし、まあ何より論理的ですよね。そういう意味では、この手の集団行動意識は日本人特有の「社会インサイト」ということができると思います。

 

 

 

世代別インサイト

 

もちろんそういう意味では、「世代という集団」にも「インサイト」はあります。自分はよく「OSが違う」、という言い方をするのですが、テレビを見て次の日にその番組の話をして育った世代(残念ながら自分は目が悪くてあまりテレビが見られなかったので、ちょっと入っていけませんでしたが)と、Youtubeを見て、SNSのタイムラインで新しいことを知りながら育った世代では、世の中を見るインサイトも、人との関係性のインサイトも同じはずはない。さらには特に若い世代では、その人が「何が好きか」「どんな環境で育ってきたのか」によって感情や心理が異なる場合があります。皆がマスメディアを見ているとは限らないからです。集団のインサイトとして例をあげると枚挙にいとまがなくなりすぎるのでこのあたりにしてきますが、「社会インサイト」を見つける時にも、データや観察を使いながら、個人の「インサイト」を捉えるときと同じかそれ以上深い「洞察」をすることは、「なぜこのニュースは世の中でこう捉えられるんだろう」ということを考えるきっかけになりますし、「それは自分の感覚とどれくらい離れているんだろう」というものさしにもなると思います。ちなみに前になんかの番組で「おっさんはインスタとTikTokやるな」と若い人たちが言ってたのでそれに従ってやめちゃいました。素直。

YOSUKE MAMIYA
1994年電通入社。2年間のマーケティング局、16年間の営業局勤務を経て、2012年よりCDC。 「戦略とは、課題の言語化である」を戦略立案の芯に据え、戦略から表現まで統合し、あらゆる課題解決業務に従事。関わる領域は、広告コミュニケーションにとどまらず、事業系ソリューション、中長期経営計画立案、インナーのモチベーション・デザインなど多岐にわたる。 2017年に電通より独立。2018年 株式会社 Que 代表取締役CEOに就任。 主な仕事として、キリンビール「一番搾り」「氷結」キリンビバレッジ「午後の紅茶」「FIRE」におけるコミュニケーション・デザイン。 トヨタ自動車「AQUA」「MIRAI」「PRIUS PHV」「C-HR」のコミュニケーション戦略、 NTT ドコモ「2020 東京オリンピック協賛プロジェクト 」、プレナス「ほっともっと」ブランディング・ディレクション、日清食品「カップヌードル」 「UFO 」におけるキャンペーン・プランニングおよび、フロンテッジにおける事業コンサルテーションなど。