間宮のコラム まみこら vol.7
“新しさ”ってなんだろう(4)

間宮 洋介

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「新しい」を見つけ出すコツ

日常で「新しさ」と出会うには

 

前回までのコラムでは、ビジネスにおける「新しさ」として「チャレンジ」と「イノベーション」の話をさせていただきました。ただ、「新しさ」のことを考える時に、年がら年中「チャレンジ」や「イノベーション」のことばかりが頭に浮かび続けても案外息苦しかったりするので、今日はもう少しライトに、「日常で『新しさ』と出会うために」「それによってワクワクするために」どうすればいいのか、について考えながら書いてみたいと思います。そういう意味では、前回は「古い話ですみません」と書きましたが、今回は「あたりまえの話ですみません」とあらかじめ断っておきますね

 

 

情報飽和時代の「新しさ」

 

ご存知の通り、現代は情報に溢れた社会です。SNSのタイムラインの例を挙げるまでもなく、現代人はあらゆる方角から情報の洪水を浴びながら生きています。それぞれの情報は、少しでも人の興味を得ようと、なにがしかの「新しさ(発見)」を持って発信されています。このコラムもそうです(何らかの「新しさ」を感じていただけているといいのですが)。ということは、裏を返すと、今の時代、人は押し寄せる「新しさ」に慣れ、ちょっとやそっとのことでは驚かない=ワクワクしない、そんな時代になったということだと思います。

 

 

「ボヘミアン・ラプソディ」は新しかった?

 

去年、映画「ボヘミアン・ラプソディ」が大ヒットしました。自分も3回見ました(うち一回は飛行機の中でしたが)。もっと何度も見た方もいたのではないかと思います。内容についてはいろいろなところで散々話されているので、このコラムでは割愛いたしますが、ちょっと違う角度から思ったことを書いてみます。自分は最初、この映画がここまで大ヒットするとは思いませんでした(見る目なし)。公開直後、SNSのタイムラインでちょっと年上の先輩や、音楽好きの友人の「素晴らしい!」「まるで自分がクイーンの一員になったようだ!」「もはや体験だ!」みたいなポストがポツポツ流れてきていましたが、正直「ふーん」としか思っていませんでした、自分がクイーン直撃世代ではなかったからかもしれません。クイーン直撃世代や音楽好きたちが「懐かしい!」「やっぱりクイーンは良い!」と再確認する映画、そんな風に思っていました。その後そんな自分も、きっかけがあって見に行って、その後しばらくクイーンにはまってしまいました。そういう人も日本中で(いや、世界中で?)たくさんいたのではないかと思います。実際、iTunesではしばらくクイーンの曲が上位を独占しました。映画の大ヒット、iTunesでの楽曲のヒットは、ただ、クイーン直撃世代が「やっぱりクイーンいいね」と再認識した結果だというだけでは説明しきれません。今までクイーンを聞いたことのなかった世代が「ボヘミアン・ラプソディ」を通してクイーンの楽曲に「初めて出会い」「そして熱烈に恋に落ちた」結果だと思います。

 

Shutterstock.com

 

 

「初めて出会った曲」はその人にとって「新曲」

 

これは今に始まった話ではありませんが、特に触れる情報が膨大になった現代、人は絶対に「すべてのことを知っている状態」にはなりません。すべてのことを知っているのは、神か、Google先生くらいでしょう(Google先生ですらすべてのことは知らないかもしれませんね)。とした時、人には必ず「今まで知らなかったことに初めて出会う」瞬間があるということです。クイーンの曲は昔からありました。ただ、「ボヘミアン・ラプソディ」を通してクイーンの楽曲に初めて出会った人にとって、例えばエンディングで流れた「Don’t Stop Me Now」は新曲なのです。これは別に音楽に限らずです。例えば、海外ドラマなんかも、最新のエピソードを一話一話追いかけて行っている人よりは、前からあったものを「イッキ見」することでハマっていく人が多いように思います。そのドラマシリーズはたとえ昔からあったとしても、初めてそれに「出会った」人にとっては、それは「新しいドラマを見始めた」ことと同じなのです。

 

 

 

「古いもの」にも「新しさ」を見出す

 

先般のコラムで、人間は「新しさ」に触れるとワクワクする、と書きました。ともすれば情報に溢れた現代、「誰も見たことがない新しさ」が求められがちですが、すごく大胆に言ってしまうと、もっとも大切なのは「今までになかった『新しい』」をつくりだすことより、どうしたら「人が『新しい』に出会った時に感じるワクワク」を最大化できるか、と考えることかもしれません。そうした時、まだ見ぬ「未来の新しさ」だけを追い求めて悶々とするよりも、今まで人間が作り出してきた膨大な「新しさ」と「質の高い感動」のアーカイブを見直し、その中から「自分がワクワクできるもの」を見つけ直すということもアリかもしれません。「古いもの」をただ「古い」と切り捨てず、「自分が知らなかったこと」と思えるようになると、人は「古いもの」にも「新しさ(自分の知らなかったことに出会うこと)」を見出すことができ、永遠にワクワクし続けることができるのかもしれません。知らないことは無限にあり、そして、「初めて出会った曲」がその人にとっては、ワクワクをもたらす「新曲」なのですから。そんなわけで、今回のそんなこと分かっとるわ!的「あたりまえの話」は以上です。

YOSUKE MAMIYA
1994年電通入社。2年間のマーケティング局、16年間の営業局勤務を経て、2012年よりCDC。 「戦略とは、課題の言語化である」を戦略立案の芯に据え、戦略から表現まで統合し、あらゆる課題解決業務に従事。関わる領域は、広告コミュニケーションにとどまらず、事業系ソリューション、中長期経営計画立案、インナーのモチベーション・デザインなど多岐にわたる。 2017年に電通より独立。2018年 株式会社 Que 代表取締役CEOに就任。 主な仕事として、キリンビール「一番搾り」「氷結」キリンビバレッジ「午後の紅茶」「FIRE」におけるコミュニケーション・デザイン。 トヨタ自動車「AQUA」「MIRAI」「PRIUS PHV」「C-HR」のコミュニケーション戦略、 NTT ドコモ「2020 東京オリンピック協賛プロジェクト 」、プレナス「ほっともっと」ブランディング・ディレクション、日清食品「カップヌードル」 「UFO 」におけるキャンペーン・プランニングおよび、フロンテッジにおける事業コンサルテーションなど。