間宮のコラム まみこら vol.25
SXSW2019(5)

間宮 洋介

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電子タバコ的マリファナ

大麻解禁のカリフォルニアでは何が変わったか

 

前回のコラムではかなり情報を詰め込んでしまいました。でも普通に日本で生きていると、大麻に関する情報は入ってきませんし、自分でもほとんど知らないことばかりで、いろいろ衝撃的でした。日本でも“大麻オイル”が買えるのか!的な。なので、今回は逆に、SXSWで参加した大麻関係のセッションで見聞きして面白かった話をいくつか書いていきたいと思います。もっとも面白かった発見は、カリフォルニアで嗜好用大麻が合法化された前後の動きでした。カリフォルニアでは2016年に、医療用、嗜好用含め全ての大麻が合法化されました。以前から、非合法でありながらアメリカの中で最大の大麻消費市場だったカリフォルニアでは、実は合法化前はマリファナに対する嫌悪感は根強く、最初の州民投票では合法化法案は棄却され、2回目の州民投票で賛成が反対を僅かな差で上回って合法化にこぎつけたということです。そしてその合法化を後押ししたのは「圧倒的経済事情」だったということでした。つまり、非合法にも関わらず大麻の消費が盛んだったということは、すでに大麻を吸っていた人が多いということ。本来であれば非合法なので、たとえ少量でも吸っている人を検挙しないといけないわけですが、それを1件1件やっていたら警察にかかる費用がいくらあっても足りない。さらにはそれほどの巨大市場なのに、非合法である限り税収には結びつかない。ならば合法化してしまった方が州としても都合がいいのではないか、という議論は昔からあったようです。2回目の投票で合法化賛成が通って最もホッとしたのは州政府だったのかもしれません。そして合法化された瞬間に、カリフォルニアの大麻関連産業は堰を切ったようにイッキに花開きました。もともと最大の市場だったわけですので、経済的なポテンシャルは大きかったということだと思います。合法化によって、それまでの「感情的、倫理的反対論」は「経済的アドバンテージ」の前に吹き飛ばされた、そんなことが起こったようです。その話を聞いて面白いと思ったのは、今回カリフォルニアで起こったのは、「正しいか正しくないか」よりは、「その波に乗りたくなるか(得になるか)」の方がイッキに人を動かし、州を動かすということでした。

 

 

 

大麻ビジネスの注目カテゴリー

 

では、カリフォルニアで大麻が合法化され、イッキに花開いたビジネスにはどういうものがあったのでしょうか。これもいくつかのセミナーで話がされていました。前回のコラムでも書いたのですが、合法化されたとはいえ、それでもまだ大麻に対する社会的印象は完全にポジティブとはいえない状態のため、大企業が大麻産業に大々的に参入しずらい(もしくは参入を宣言しずらい)環境にあるそうです。それもあって、たとえば食品やオイルや吸引機器といった「大麻製品そのもの」を作り、売るビジネスというよりは、その周辺ビジネスが盛り上がり、投資も集中しているそうです。そもそもカリフォルニアの州法で、消費者が生産者や製造メーカーから直接大麻商品を買うことが禁じられているため、多くのスタートアップが、「大麻商品を生活者に届ける」サービスに参入しています。特に「店(ディスペンサリー)」と「デリバリーサービス」がアツい、ということでした。かつての「大麻取引」というと茶色い紙袋に入れてコソコソと受け渡す、みたいなイメージでしたが(やったことないですけど)今ではオシャレな店も増えてきたそうです。https://shopserra.com/location/portland-dispensary-downtown これとか、ポートランドのお店ですが、めちゃめちゃオシャレ。そしてそうしたディスペンサリーで大麻を選んでくれるのが、バーテンダーならぬバドテンダー(budtender)。彼らは大麻調剤師と言われる職業で、そうしたディスペンサリーでお客さんに最適な大麻を調合してくれる人たちです。”budtender”で画像検索すると、怪しさの全くない、笑顔の人たちが出てきますが、大麻の合法化がさらにすすむと、バドテンダーもいつか人気職業になっていくのかもしれませんね。

 

 

 

デリバリーサービスとは

 

一方、セミナーでもう一つ、注目カテゴリーとして紹介されていたのは、大麻の「デリバリーサービス」です。カリフォルニアに限ったことではなく、40代以上の男女はいまだに「大麻を店に買いに行く」ということに抵抗があるようで、そうした人たちが利用するのが「大麻のアプリ」なのですが、急激な市場の拡大により、アプリも乱立し、そしてそのアプリの中で扱われている商品の種類も膨大で、お客さんは自分が何を選んでいいのかもう全くわからない状態になっている、とのことでした。そこで、生産者や製造メーカーとお客さんを正しくマッチングするサービスが生まれ、そこに多額の投資が集まっているそうです。たとえばロサンゼルスのスタートアップ”WebJoint”は、大麻のオンライン販売、POSによる在庫管理、METRC(カリフォルニア州が導入している大麻の販売・流通のコンプライアンスシステム)への申告などを一括して行えるソフトウェアですが、これをアップデートさせた”WebJoint3.0”は、さらに追跡・管理機能を追加することにより、大麻のデリバリーの確実性と透明性を高めることで一躍注目を浴びました。前述のように、カリフォルニアでは生産者や製造メーカーが直接お客さんに大麻を売ることができないのですが、”WebJoint”を利用することによって、製造メーカーは自社ウェブサイトで商品をユーザーに向けて自社製品をアピールすることが可能になり、ユーザーはブランドのウェブサイトから注文できるようになります。デリバリーサービスといっても、実際には、ブランドと連携する販売店にからユーザーに届けられる仕組みになります。ここで重要なのが、たとえばこのツールを使うと、そもそもその大麻がどこで育てられてどのように製品化され、どのメーカーから、どこの販売店を通って自分のところに届くのかがトラッキングできるということです。合法化されたとはいえ、どこかで後ろ暗い思いがある大麻の購入を透明化するこのサービスが注目を集めている背景には、世の中にまだ根強い「大麻の取引はいかがわしい」という印象があることの裏返しなのかもしれません。

 

 

 

若い価値観とテックが大麻取引を透明にしていく

 

ちなみに”WebJoint”のCEOは23歳(2018年11月時点)。創業したのはさらに4年前で彼が高校生だった時らしいです。今やアメリカ経済においてはあらゆるジャンルにおいて“デリバリービジネス”が注目を集めていますが、特にこの“嗜好用大麻”のジャンルにその概念を持ち込み、さらにテクノロジーでその取引を透明化してしまおうというアイデアと実行力は凄まじい。合法大麻ビジネスが急拡大するにつれ、必ずしも「大麻製品をつくる」というど真ん中でなくても、ビジネスのチャンスがいくらでも転がっており、それを形にするのは速さとテクノロジーの勝負だということが、SXSWの大麻関連セミナーで面白いと思ったふたつめのことでした。次回は急激に増え続ける大麻製品における「ブランディング」について書きたいと思います。

YOSUKE MAMIYA
1994年電通入社。2年間のマーケティング局、16年間の営業局勤務を経て、2012年よりCDC。 「戦略とは、課題の言語化である」を戦略立案の芯に据え、戦略から表現まで統合し、あらゆる課題解決業務に従事。関わる領域は、広告コミュニケーションにとどまらず、事業系ソリューション、中長期経営計画立案、インナーのモチベーション・デザインなど多岐にわたる。 2017年に電通より独立。2018年 株式会社 Que 代表取締役CEOに就任。 主な仕事として、キリンビール「一番搾り」「氷結」キリンビバレッジ「午後の紅茶」「FIRE」におけるコミュニケーション・デザイン。 トヨタ自動車「AQUA」「MIRAI」「PRIUS PHV」「C-HR」のコミュニケーション戦略、 NTT ドコモ「2020 東京オリンピック協賛プロジェクト 」、プレナス「ほっともっと」ブランディング・ディレクション、日清食品「カップヌードル」 「UFO 」におけるキャンペーン・プランニングおよび、フロンテッジにおける事業コンサルテーションなど。