間宮のコラム まみこら vol.34
SXSW(10)

間宮 洋介

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まとめでこぼれた話まとめ

 

 

 

速めのカメでいく。

 

4月に入ってから“目指せ毎日更新!”という合言葉(?)でコラムをほぼ毎日更新してきたわけですが、常軌を逸してクレイジーなペースだったのと流石に社員にも引かれはじめてきたので、5月からは、ぼちぼちペースで書いていこうと思います。SXSWについては9回にわたって書いてきましたが、実はそれでは収まらないほど様々なインプットがありました。今日は備忘録も兼ねて、面白かった話とそれに対する洞察を簡単に書いていって、SXSWの話最終回にしようと思います。

 

 

EC全盛の今も、リアル店舗が復権するチャンスあるよの話

 

流通に関するセミナーに出たのですが、その時に面白かったのが、百貨店macy’sの“モバイルチェックアウト”と、スーパーマーケットチェーンTargetの“ドライブアップ”というサービスです。“モバイルチェックアウト”は、フロアごとに見て回って気に入った商品をアプリに登録しておくと、退店時にまとめて会計ができて、さらに店員がそれらの品物をまとめてお客さまに渡してくれるサービスです。それまでの百貨店の、「フロアごとに会計する」や「買った品物を持ち歩く」といった面倒くささを軽減し、純粋に買い物の楽しみだけを残した取り組みとして話題になっていました。一方、ターゲットの“ドライブアップ”は、あらかじめ買おうと思っていたものをアプリに登録していくと、例えば週末など、まとめて買い物に行くとき、その店の駐車場に入った瞬間にアプリからアラートが鳴り、買うものをリマインドしてくれるサービスです。さらには、その買い物リストを事前に店側に通知することで、ドライブスルーの窓口のようなところで、店員がクルマに積んでくれるサービスも実施。これも「会計」の面倒くささや「買い忘れ」の不快を取り除いてくれます。これらのサービスは両方とも「買い物体験の楽しさ」を残しつつ、「決済の面倒くささ」を取り除くサービスなのですが、興味深かったのはそのセミナーで「いくらECが便利になろうとも、人は買い物に楽しさを見出す」ということが話されていたことでした。例えば友達と買い物に行って試着室前で「これ似合う?」など見せ合いっこすることは一つの楽しさですし、新発売されたばかりでまだ誰も触ったことがないものを実際に手にとって試せることも「現実の買い物体験」の楽しさです。リアル店舗の今後の可能性として、その人間の根源的な「体験する楽しさ」を生かしていくべき、というセッションの趣旨は、このテクノロジー全盛の世の中で、興味深い示唆だと思いました。

 

フェイクニュースの時代に信頼を勝ち得るにはの話

 

これはコンベンションホールで行われたKeynote Sessionだったのですが、テーマが面白く、興味深く聞けました。スピーカーは、ニール・パリスチャという作家(ブロガー)で、何年か前に“1,000 Awesome Things”という本をヒットさせた方です。このセッションで言われていたことは、ネット全盛の時代になり、読者との間に信頼関係を築くのが難しくなった、ということでした。まあ、それは自分も感じます。フェイクニュースの例を取るまでもなく、ネットは様々な情報に溢れ、どれが信頼性のある情報が、自分自身の情報リテラシーを駆使しないと答えにたどり着けないことが多く、そもそも「信頼」なんてできるのか、という疑問すら抱きます。そんな状況の中で、彼は、信頼を勝ち得る情報(もしくは信頼を勝ち得る振る舞い)を生み出すには3つのポイントを押さえるべきだ、という話をしてくれました。①無限より有限:確かにネットの世界は無限だが、人は「際」を見せることで信頼しやすくなる。確かに、「私は全部できます」より「私はここにジャンルについては第一人者です。任せてください」と言われると信頼しやすいな、と納得しました。②人の“思考”はアルゴリズムに勝る:これは半分理想論なのか?とも思いましたが、AIやアルゴリズムが普通に常備されるようになっていく中で、いかに“人間が考えた痕跡を残すか”が信頼感につながることがこれから多くなってくるだろう、ということでした。これはまだ日本にいる限りはあまり感じないのですが、日々botや対話型AIに慣れ始めてきたアメリカ人にとっては感じ始めている感覚なのかもしれませんね。③限られた領域の中で、全部見せる:①のポイントと関連することなのですが、やはり「専門店」という「区切り」と、その名で自分たちがやっていることを「全部見せる」ことが信頼につながる、という話でした。アメリカのあるハンバーガーチェーンが例として示されていたのですが、そこはフレンチフライが名物で、その日、店にある(仕入れた)ジャガイモを全て店の中にダンボールで置いていて“これが私たちが今日持っているジャガイモ全てです”と掲示しているそうです。そしてそこからジャガイモを取ってフレンチフライを揚げると、お客さんはフレンチフライができる過程を目の当たりにすることによってその店への「信頼」を抱くようになる、と。これも、コミュニケーションの手法として学ぶべきことが多くあるな、と思いました。

 

というわけで、SXSWについてのコラムはこれで終わりにしたいと思います。なんだかんだ言ってもう2ヶ月前のことですし。最近、日本企業の方が、面白いテックベンチャーが出てこない、と言って敬遠する動きもあるSXSWですが、確かに領域が広く、事前に課題意識を持っていないと散漫な印象しか残らないイベントではあるな、と思いつつ、膨大なインプットをくれたので、個人的には本当に感謝していますし、もっとセッションに出席する人たちが増えるといいなと思いました。もし今年SXSWに行かれた方がいらっしゃったら、ぜひいろんな話をしたいです。声をかけていただければ幸いです。

YOSUKE MAMIYA
1994年電通入社。2年間のマーケティング局、16年間の営業局勤務を経て、2012年よりCDC。 「戦略とは、課題の言語化である」を戦略立案の芯に据え、戦略から表現まで統合し、あらゆる課題解決業務に従事。関わる領域は、広告コミュニケーションにとどまらず、事業系ソリューション、中長期経営計画立案、インナーのモチベーション・デザインなど多岐にわたる。 2017年に電通より独立。2018年 株式会社 Que 代表取締役CEOに就任。 主な仕事として、キリンビール「一番搾り」「氷結」キリンビバレッジ「午後の紅茶」「FIRE」におけるコミュニケーション・デザイン。 トヨタ自動車「AQUA」「MIRAI」「PRIUS PHV」「C-HR」のコミュニケーション戦略、 NTT ドコモ「2020 東京オリンピック協賛プロジェクト 」、プレナス「ほっともっと」ブランディング・ディレクション、日清食品「カップヌードル」 「UFO 」におけるキャンペーン・プランニングおよび、フロンテッジにおける事業コンサルテーションなど。