会社の強さは、たいてい言葉になっていない。それでも、たしかに引き継がれてはいる。
会社の強さについて聞くと、多くの経営者が少し困った顔をします。「うちは、なんというか、人がいいんですよ」「風土、ですかね」。嘘ではないのだと思います。ただ、その言葉で採用の場に立つことはできないし、新しく入った人がその通りに動けるわけでもない。
強さは、たいてい言葉になっていません。
けれど、たしかに引き継がれてはいるのです。ある案件で判断に迷ったとき、上司が何を優先したか。うまくいかなかったときに、誰がどう振る舞ったか。会議で誰も口にしないのに、全員が守っている暗黙の線。そういうものを、後から入った人は見て覚えていきます。言葉を介さずに伝わっているから、強い。同時に、言葉になっていないから、増やせないし、外に届かない。
私たちがカルチャーブックをつくるとき、最初にやるのは、この「非言語のまま引き継がれてきたもの」を掘り出す作業です。
理念をつくる仕事とは、性質が違います。理念は「こうありたい」を決める仕事で、宣言に近い。一方こちらは「こうなっている、だから強い」を記述する仕事です。まだ無いものを立てるのではなく、すでに在るのに見えていないものを、見える形にする。
そのために、社員に話を聞きます。ただし「御社の強みは何ですか」とは聞きません。その問い方をすると、たいてい会社案内に書いてあることが返ってきます。聞くのは、具体的な出来事のほうです。いちばん苦しかった案件は何だったか。そのとき何を捨てて、何を守ったか。他社から来た人が驚いたことは何か。判断の現場を語ってもらうと、その人自身も気づいていなかった基準が言葉として出てきます。
出てきた言葉は、そのままでは束になりません。だから構造にします。社会に対してどういう態度をとっているのか。何をつくれるのか。どうやってつくるのか。誰と組んでいるのか。それを支える組織と個人はどうなっているのか。層に分けて並べ直すと、バラバラだったエピソードが「だから強い」の因果でつながります。
言葉にすると、失われるものもあります。生きた文化を紙に固定すれば、それは標本になる。その危うさは自覚しています。だからカルチャーブックは、完成品ではなく途中経過として置くようにしています。「今のところ、私たちはこうです」。何年か経って合わなくなったら、また書き直せばいい。
それでも一度言葉にしておく価値があるのは、言葉があると、人が増やせるからです。空気は人数が増えると薄まりますが、言葉は逆だと思うのです。