間宮のコラム まみこら vol.5
“新しさ”ってなんだろう(2)

間宮 洋介

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「イノ」ベーションの話です

ビジネス頻出ワード、「チャレンジ」と「イノベーション」

 

前回、ビジネスにおける「チャレンジ」について書いていたら筆が(筆じゃないけど)止まらなくなったので、引き続き、「ビジネスにおいて”新しい”を求めるということ」について書こうと思います。ビジネスにおいて「チャレンジ」に負けず劣らずもてはやされてる感のある言葉に「イノベーション」があります。野中郁次郎先生の書かれた「イノベーションの本質」が出版されてからもう15年、(多分ですが)自分の周りでこの一年、「チャレンジ」と「イノベーション」という言葉を一回も発したことのないビジネスマンはいないんじゃないかくらいにメジャーな言葉になったように思います。

 

 

そもそも「イノベーション」とは

 

それでは、我々があたりまえに使うようになった「イノベーション」とはそもそもなんでしょう?普通に言葉の意味を調べると「イノベーション=(技術)革新」という定義が出てきます。そのほかに「大きな変化」「新しい活用法」のような解釈も見受けられます。いずれにしろ、とてもざっくりと定義すると、「イノベーションとは、ビジネスや決まりごとに、新しい考え方を持ち込むこと」だと思います。とすると、「イノベーション」という言葉がこれだけ頻出ワードになっているのは、これも「チャレンジ」と同じくビジネスにおける「新しさ」を求める活動のひとつであり、だからこそ現代において何か底知れぬ期待を持たれやすい言葉だからなのかもしれません。

 

 

新しければそれは「イノベーション」?

 

一方で、ビジネスにおいて「チャレンジ」「イノベーション」という言葉がこれだけメジャーになってきているいま、「ビジネスにおける新しいこと」を表現するために、なんでもかんでもこれらの言葉を使えばいいってものでもないという気もします。先日のコラムでは「ビジネスにおけるチャレンジに最も必要なのは目的性」という話もさせていただきましたが、「イノベーション」についても、「ただ新しい考え方を持ち込む」という漠然とした定義だけではなく、ある一定のクライテリア(線引き)を持っておくとその言葉の指し示すことが明確になるし、イノベーションに向かう戦略も構築しやすくなるのではないかと思っています。

 

 

イノベーションとは「未来の”常識”をつくること」

 

「イノベーション」のことを考えるときにいつも自分が対比しているのが、「発明(インベンション)」です。これらはどちらも「“新しい”をつくりだす活動」ですが、二つは少し違っているような気がします。誤解を恐れずにいうと、「発明」は主に新しい”モノ”をつくりだす活動なので、いつか淘汰されていく「新しさ」であり、「イノベーション」は新しい“常識”をつくりだす活動なので、淘汰されずに「あたりまえ」になっていく「新しさ」。そういう違いがあるのではないかと思います。つまり、「イノベーション」とは、未来になって振り返った時、「ああ、これはもう戻れない」と人が感じるような「新常識をもたらす変化」のことだと思っています。ただ「人が驚くような新しいモノやコトをつくったり生み出したりする」ことは「発明(インベンション)」であって、それだけでは「イノベーション」ではない。もちろん、自分自身はモノが好きだったりするので「あっと驚くような発明(インベンション)」に触れるのも大好きです。ワクワクします。一方で、定着し、未来において「新しいあたりまえ」になるような「変化」をつくることが「イノベーション」。個人的にはそう定義するようにしています。もちろん、「全く新しい(モノの)発明」から生まれる「イノベーション」もあると思います。

 

 

ドコモの企業スローガンに込めた思い

 

5年ほど前に、NTTドコモさんの企業スローガンをつくる仕事に関わらせてもらったとき、この考え方で戦略を書きました。ドコモというのは、「それまで家の中でするものだった電話を外に持ち出すというイノベーション(携帯電話)」と、「携帯端末でインターネットができるようにするというイノベーション(i-mode)」を生み出した会社です。もう今や携帯電話で話すことや携帯端末でインターネットをすることは当たり前すぎて、そうではない過去に戻れる気がしません。じつはドコモこそイノベーションの会社であり、これからもそうでありたい、という気持ちを込めて、「いつか、あたりまえになることを」というスローガンを提案し、結果、採用いただきました。

 

 

「イノベーション」を目的にしない

 

そもそも「イノベーション」について語り出したのは、ビジネスにおける「新しさ」の話と関連していたからでした。もちろん、「イノベーション」という言葉や、それがもたらす新しい世界は、自分も含め、人をワクワクさせてくれます。一方で、「イノベーションを生み出す」人が意識するといいのではないかな、と思うのは、「イノベーションすること(ちょっと言葉が変ですね)」を目的にせず、「イノベーションを起こした結果、どんな新常識が生まれるのか」「未来から振り返ったとき、『もう戻れないな』と思えるくらいの変化ってなんなんだろう」を考え、そこをゴールにして考え始めるといいのではないかな、と思います。

YOSUKE MAMIYA
1994年電通入社。2年間のマーケティング局、16年間の営業局勤務を経て、2012年よりCDC。 「戦略とは、課題の言語化である」を戦略立案の芯に据え、戦略から表現まで統合し、あらゆる課題解決業務に従事。関わる領域は、広告コミュニケーションにとどまらず、事業系ソリューション、中長期経営計画立案、インナーのモチベーション・デザインなど多岐にわたる。 2017年に電通より独立。2018年 株式会社 Que 代表取締役CEOに就任。 主な仕事として、キリンビール「一番搾り」「氷結」キリンビバレッジ「午後の紅茶」「FIRE」におけるコミュニケーション・デザイン。 トヨタ自動車「AQUA」「MIRAI」「PRIUS PHV」「C-HR」のコミュニケーション戦略、 NTT ドコモ「2020 東京オリンピック協賛プロジェクト 」、プレナス「ほっともっと」ブランディング・ディレクション、日清食品「カップヌードル」 「UFO 」におけるキャンペーン・プランニングおよび、フロンテッジにおける事業コンサルテーションなど。