間宮のコラム まみこら vol.29
SXSW2019(7)

間宮 洋介

SHARE

テクノロジーは誰を救うのか

 

“ウエルネス”と“テクノロジー”

 

今回のSXSW視察はさまざまな企業の方と一緒のツアーで、それぞれが興味のある分野のセッションに参加したのち、夜にそのメンバー同士での勉強会がある形式のものだったため、自分が「選ばなかった」ジャンルのセッションの話を聞くことができ、新たな興味も生まれました。その中で、“ウエルネス”系のセッションを重点的に聞いていた方から聞いた話が“問い”にあふれていた上、自分たちが投資で関わっているスタートアップの課題にも直結していたので、非常に興味深かったです。“ウエルネス”の分野は、SXSWでは“Health & Med -tech”とカテゴライズされ、去年はめちゃめちゃ盛り上がった領域でした。さまざまな先端テクノロジーがエンターテインメント分野で概ね使われきり、次は医療分野に流れ込んでくることでこの分野におけるさまざまな課題はテクノロジーで解決できるようになる!という期待が一気に高まっていたそうです。ところが今年は一転、「本当にそうだろうか、、、」という“問い”が発せられ始めたということでした。具体的にはこの1年で何が変化したのでしょうか?

 

 

 

「テックっぽさ」のメリットは白人だけが享受している

 

テクノロジーが進化し、患者の“データ”取得が高度化されることによって、ここ数年、確かに疾病による死亡率は下がりました。一方、今アメリカで問題視されているのは、疾病による死亡率は人種によって異なることがわかってきたこと、そして、アメリカ国民の人種構成が大きく変わって有色人種が増えてきている中で、データの収集とその役立て方に「人種による格差」が出てきていることだそうです。端的にいうと、所得の高い白人の疾病による死亡率は下がっているけど、有色人種のそれは下がっていない、つまり、医療における「テックっぽいところ」のメリットは白人だけが享受し、有色人種には還元されていないとの指摘が年々メジャーになってきているのだそうです。セッションの中では、その原因の一つとして、白人医師と有色人種の患者のコミュニケーションがうまくいかないケースが多いこともあるのではないか、と語られたそうです。日本に暮らしているとなかなか想像しずらいところもありますが、アメリカ社会における人種と所得による圧倒的な格差は、ダイレクトに「国民の命のリスク」にも大きな差をもたらしてしまっているようでした。

 

 

 

最新の医療テックは「テキスト」

 

そんな中、今年のSXSWで提示された“ウエルネス”と“テクノロジー”についての“問い”は、「医療テクノロジーは恵まれた人だけのものなのか?」「取り残された人を救えないのか?」ということでした。そしてそのセッションでは、「取り残された人を救うための最新にして最良のデータは『テキスト』だ」ということが言われていたそうです。どういうことかというと、そもそもアプリには言語の壁やユーザー知識の壁があり、画像には通信の制限があるため、どこまでいっても使う人を限ってしまう。テキストであれば膨大なコンテクストマイニング(世界中の膨大なテキストデータから文脈を予測し、疾患の種類を推察することができる、など)から、あらゆる人々が平等に享受でき、かつ信頼関係を築くための最も“確からしい”手法だ、という考え方が主流になってきているそうです。テクノロジーが進化したその先に、「そこに取り残される人はいないのか」という“問い”が生まれ、それで改めてテクノロジーの進化を見つめ直す、という動きが顕在化することこと、まさしくSXSWが“問いの祭典”であることを証明する話だな、感じました。翻って日本で考えてみると、確かに人種による「取り残し」は少ないかもしれませんが、一方で「高齢者問題」については、全く同じことが起こるのではないかとも思います。もちろんこれからの高齢者はスマホもアプリも使いこなせるようになる、という期待もないわけではないですが。ともあれ日本において医療テクノロジーを導入する際に、できるだけ「高齢者」を取りこぼさないようにしないと、財政的にも社会的にも課題は根本的に解決されないのではないか、と感じました。「取り残される人を作らないために、常にテクノロジーの意義を“問い”なおす」、SDGsで言われるところの“No One Left Behind”ですね。もちろん難しいことなのでしょうが、自分の戦略立案マインドに叩き込みたいと改めて思いました。

YOSUKE MAMIYA
1994年電通入社。2年間のマーケティング局、16年間の営業局勤務を経て、2012年よりCDC。 「戦略とは、課題の言語化である」を戦略立案の芯に据え、戦略から表現まで統合し、あらゆる課題解決業務に従事。関わる領域は、広告コミュニケーションにとどまらず、事業系ソリューション、中長期経営計画立案、インナーのモチベーション・デザインなど多岐にわたる。 2017年に電通より独立。2018年 株式会社 Que 代表取締役CEOに就任。 主な仕事として、キリンビール「一番搾り」「氷結」キリンビバレッジ「午後の紅茶」「FIRE」におけるコミュニケーション・デザイン。 トヨタ自動車「AQUA」「MIRAI」「PRIUS PHV」「C-HR」のコミュニケーション戦略、 NTT ドコモ「2020 東京オリンピック協賛プロジェクト 」、プレナス「ほっともっと」ブランディング・ディレクション、日清食品「カップヌードル」 「UFO 」におけるキャンペーン・プランニングおよび、フロンテッジにおける事業コンサルテーションなど。