間宮のコラム まみこら vol.2
“正しい”はつまらない?

間宮 洋介

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「正しい問い」における「正しい」とは何か?を考えてみました。

“正しい”はつまらない?

アイデアやクリエイティブに関わる仕事をやっていると、どうしても“正論”はつまらないものとして扱われがちになります。「それって、正しいけどつまらなくない?」自分もよく言われます。大人気のauのCMでも「正しいより楽しい」「正しいよりおもしろい」と歌われていたりします。確かに、“正しい”ことを積み重ねていくことで、誰も突っ込めない完璧なロジックが出来上がる代わりに、「隙が無さ過ぎて心が動かない」「正しいけど、おもしろくない、楽しくない」みたいなことが起こります。こういう仕事においては「心が動かない」「つまらない」「楽しくない」ことは万死に値すると思われがちだったりするので、企画会議などでは、“正しい”意見はまず最初に駆逐される確率が高くなります。

 “正しい”は時に人を傷つける。

“正しい”の苦悩は、それだけではありません。“正義”“正論”など、“正”がつく熟語にはどこか、固さと頑なさが漂います。人間関係でも、「正論はわかるけど、それを言っちゃあおしまいよ」というシーンに遭遇することも度々あります。そういう場合、正論をぶつけられた側はただただ黙りこむしかない、例えばそれが恋愛関係だと、たいていの場合、それをもってジ・エンド、ということになったりします。「言い返せない」というのは時に最強の武器になって、相手を傷つけるからです。相手が黙ったのは結局納得したからではなく、ただ言い返せなかっただけだから、負の感情だけが残ることになります。

ぐうの音も出ない「正論」の危うさ。

“正しいは人を傷つける”。実はこれ、「正」という漢字の成り立ちにも起因しているようです。「正」の字は、「一」と「止」という字の組み合わせです。ただ、「一」は古代文字でいうと「□」、これは城壁で囲まれた国や領土のこと、そして「止」は、現代の「止まる」ではなく「足」や「進む」のことを表しています。「止」とは「歩」の略字だという説もあります。これらを組み合わせた「正」という漢字は、「城壁に囲まれた領土に向けて進む(進軍する)」という意味になるそうです。極論すると、「正」という字には、領土を拡大し、自分のものにする行為を「正」当化するという、侵略者側の字だという解釈もあるそうです。

つまり、“正”には、もともと「他者をねじ伏せる」という意味が含まれている、それゆえに、闇雲に“正論”を振りかざすのは、人を圧し、傷つけることにつながるのです。だからこそ“正しい”は気をつけて使わなければいけない、これが“正しい”のもう一つの苦悩です。

一億総コンセンサス時代、“正しい”は希望だ。

それでは“正しい”ことはよくないこと、排除すべきことなのでしょうか。僕は、これからこそ、“正しい”ことがもっともっと必要とされる時代だと思います。というよりは“正しい”と見せること、そう説得することが重要視される、といった方が正しいかもしれません。今、あらゆる仕事で、「プロセス」が大事にされ始めています。というより、社内の意思疎通(部署内での決裁、部署間での意識のすり合わせ、キーマンへのプレゼンなど)で丁寧な「プロセス」を共有していかないと、話が通らない、決定が下りない、というケースが増えているように思います。会社内における「コンセンサス」が最重要視される時代、どうしても“華やかなアイデア”“卓越したクリエイティブ”だけでは仕事が進まないのも確かです。最良の結果に行きつくために、時には、誰もが納得せざるをえない“正しい”ロジックを効果的にはさんでいくことが必要です。僕はそれが、これからの「コンセンサス時代」にストラテジー(“正しい問い”と“正しいロジック”を積み重ねていくこと)が担う役割の一つだと思っています。

未来の“正しさ”をつくるということ。

とはいえ、Queの仕事は(そして、実は世の中の仕事のほとんどは)未来をつくることです。そして、未来のことには絶対的な“正”解などありません。どんなに“正”と主張しても、本当はそれが本当に“正しい”のかどうかは時間と神様にしかわからないからです。しかし一方で、過去の経験と現在の現象を注意深く見ることで、何が“絶対的に正しくない”のかはある程度わかります。それらを排除していくことで、“正しそう”なことを推察することは可能です。人間にできるのは“明らかにやってはいけないこと”を排除し、“正しそうな”ことを推察することによって最良の結果に到達する確率を高めること、これを筋道立てて組み立てる仕事がストラテジーだと捉えています。

“正しい”とは“何が正しいのか”を問い続ける姿勢。

先ほど、“正”という漢字の成り立ちについてお話ししましたが、実は僕が思う“正”の字の解釈は、先ほどの解釈とはちょっとだけ違います。僕が思うに、「止」が「歩む」「進む」だとするなら、上の横棒は「ゴール」なのではないか。ゴールテープのイメージですね。目標地点に張られたゴールテープに向かってまっすぐに進んで行く。それが“正”という意味なのではないかと思っています。

そのために必要なこととは何でしょうか。今ではスマホを開けばすぐに“正解”と言われるものに手が届きます。でも、それが本当に自分やクライアントにとっての“正解”だとは限りません。としたら、必要なのは、ゴールテープはどこに張られているのか、そしてそのゴールテープを切るために何をすべきで、何をすべきでないのか、とにかく問い続け、考え続けることだと思います。つまり、“正しい”とは、“何が正しいか”を問い続ける姿勢や行動規範のことだと思います。

そんなわけで、今後も、正しい、そして時にはめんどくさい「問い」を仕掛けていきますので、そこそこのところまご容赦いただき、一線を越えたら「めんどくさいよ!」とお叱りいただければ幸いです。

YOSUKE MAMIYA
1994年電通入社。2年間のマーケティング局、16年間の営業局勤務を経て、2012年よりCDC。 「戦略とは、課題の言語化である」を戦略立案の芯に据え、戦略から表現まで統合し、あらゆる課題解決業務に従事。関わる領域は、広告コミュニケーションにとどまらず、事業系ソリューション、中長期経営計画立案、インナーのモチベーション・デザインなど多岐にわたる。 2017年に電通より独立。2018年 株式会社 Que 代表取締役CEOに就任。 主な仕事として、キリンビール「一番搾り」「氷結」キリンビバレッジ「午後の紅茶」「FIRE」におけるコミュニケーション・デザイン。 トヨタ自動車「AQUA」「MIRAI」「PRIUS PHV」「C-HR」のコミュニケーション戦略、 NTT ドコモ「2020 東京オリンピック協賛プロジェクト 」、プレナス「ほっともっと」ブランディング・ディレクション、日清食品「カップヌードル」 「UFO 」におけるキャンペーン・プランニングおよび、フロンテッジにおける事業コンサルテーションなど。